大怪獣まんだら

GIGAN YAMAZAKI & WAGAYA FACTORY's blog

ほぼ一日一怪獣(ゲゾラ)


海外の好事家たちは、日本の「怪獣」を自国の「GIANT MONSTER」と一緒くたにすることなく、きちんと区別して「KAIJU」と呼ぶ。もちろん、映画『パシフィック・リム』が公開される以前からの話だ。怪獣たちに、それだけ異質なる雰囲気を感じているということだろう。我々日本人が、エイリアンやプレデターを「怪人」ではなく、「クリーチャー」「モンスター」などと呼んでいるように、両者は似て非なる存在なのだ。


怪獣とGIANT MONSTER……片や着ぐるみ、片やコマ撮り、その表現方法が大きく異なっていたのだから、両者の見た目に違いが現れるのは当然のこと。実際、向こうのクリエイターがKAIJUをデザインするとき、まるで人間が入ってるような骨格を強く意識していることは間違いない。ただ、日本にも人間のシルエットに縛られない操演怪獣が存在する。つまり“中の人”がいれば怪獣、というほど単純な話でもないのである。*1


じゃあ、何が日米のギャップを作ったのかといえば、やはり成田亨の存在が一番大きいのではないか。『ウルトラQ』におけるペギラの誕生とともに、怪獣は独自路線を歩み始めたと言っても過言ではない。かの有名な「怪獣デザインの三原則」にある“地球上のある動物が、ただ巨大化したという発想はやめる”からも、GIANT MONSTERとの差別化を意識していたことが分かる。ただし、ペギラは純然たる成田デザインというワケではない。


そう。ペギラのデザインには、東宝特撮の黄金時代を支えた井上泰幸による原案が存在する。『ウルトラQ』の怪獣デザインは、そもそも井上が担当していたのだ。井上は、自分の後任に成田を指名した張本人だが、その一方で抽象美術を思わせる新たな怪獣像には否定的だったとも伝えられている。エビラ、クモンガ、カマキラス、ゲゾラ、ガニメ……確かに井上の描いた怪獣は、実在する生物をただ巨大化させたようなものが多い。


もっとも先述のペギラやゴメス、バラゴンといった怪獣らしい怪獣も手掛けてはいるのだが、成田の手によるモダンなウルトラ怪獣群に見慣れてしまうと、やや創造性に欠けたデザインばかりという印象を抱く向きもあるかもしれない。ちょっとしたデコレーションを加えた恐竜モドキという言い方だってできなくはないし、色彩からして地味だ。だが、彼らがとてつもなくカッコいい怪獣であることだって否定できないのではないだろうか。


自分の大好きなゲゾラなんて、まさしくカミナリイカを立たせただけの怪獣だが、そもそもイカ自体が完璧な造型を有しているのだから、敢えて余計な手を入れる必要はないのだ。ただ単純に直立したということのみによって、充分に怪獣怪獣してるじゃないか。もちろん、『ジャイアントロボ』のイカゲラスのように、存分に趣向を凝らしたデザインのイカ怪獣も素晴らしい。しかし、ゲゾラはゲゾラでまた正解なのである。KAIJUとGIANT MONSTERの境界線が、まだ曖昧だった時代ならではの魅力を備えた一体だ。


ゴジラ特撮大百科ver.2 南海の大決闘篇 大いか怪獣ゲゾラ / イワクラ

*1:それこそプレデターなんて、着ぐるみで表現されているキャラクターだ。より手の込んだつくりにはなっているが、本質的にはショッカー怪人やウルトラ怪獣と何も変わらない。