大怪獣まんだら

GIGAN YAMAZAKI & WAGAYA FACTORY's blog

ゴジラ プラマイ0


ハリウッドかぶれの自主制作映画少年だった頃、『VERSUS -ヴァーサス-』の北村龍平と『リターナー』の山崎貴は、どこか憧れにも似た親近感を抱かせる映像クリエイターであった。今となっては気恥ずかしさすら覚えるハリウッド大作からの丸々いただきカットも、当時はむしろ好ましいものとして見ていた気がする。おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!ってなもんだ。そして、奇しくもその二人がゴジラ映画を監督することとなる。いずれも“らしい”作品に仕上がっていたと思う。『ゴジラ FINAL WARS』は、他の怪獣を一切寄せつけない圧倒的な強さを誇るゴジラに馴染めなかったし、なんで轟天号の艦長がドン・フライ……?*1 みたいな引っかかりもなかったわけではないが、ミレニアムシリーズでは一番のお気に入り作品になった。

一方、『ゴジラ-1.0』はというと……まあ、こんなもんじゃないか? “予想を裏切り、期待を裏切らない”と謳ったのは『グラップラー刃牙』だが、よくも悪くも予想と期待を裏切らない映画だ。今の山崎貴ゴジラ映画を撮ったら、こんなものになるはずという想像の範疇からはみ出すところは一切ない。画面を観てれば分かることをセリフですべて説明して、強引に観客の感情を誘導するスタイルは今に始まったことではないし、どんな名優を連れてきても型にハマったオーバーアクトをさせる点も同様だ。こういったTVドラマライクな演出*2 は、いくらなんでも観客の知性を低く見積もり過ぎではないかとイラ立つ部分があるものの、そんな批判が出ることぐらい向こうだって百も承知に違いない。実際、彼は大ヒットを連発してるのだから、これが山崎貴流の成功メソッドなのだろう。

正直、自分も好ましい映画の作り方とは思えないのだが、一種の方法論として確立されている以上は受け入れていくしかない。うまい豚骨ラーメンが臭かったりするのと一緒だ。イヤなら食わなければいい、観なければいい。なんだかんだで山崎貴作品を欠かさずチェックしているおれは、もうそういうものだと割り切って観ることにしている。だから相変わらずだなとは思うが、腹を立てることもない。また、一部ではハリウッドを超えたと評されるVFXに関しても、特に感情が激しく揺さぶられることはなかった。確かに素晴らしい完成度だ。『シン・ゴジラ』のVFXは、実写と見紛うフォトリアルなカットもあれば、まるで専門学校の卒業制作のようなカットもあり、まさに玉石混交の出来栄えだったが、今回はカットごとのクオリティのバラつきもなく、非常にアベレージが高かったと思う。

しかし、三丁目の夕日シリーズや『海賊とよばれた男』における昭和の街並み、『永遠の0』と『アルキメデスの大戦』での第二次世界大戦にまつわるエトセトラを見ていれば、*3 取り立てて驚くほどのものでもなかろう。だって、白組が特撮やってるんだぜ? そりゃあスゴいものが出来上がってくるに決まってる。じゃあ、なんで心が動かなかったのかといえば、それは物量的な食い足りなさから来るものに他ならない。銀座のくだりは、いきなり電車の車輌が飛んでくる出だしからしインパクト抜群だが、やっぱり海から上陸してきたゴジラが、人間の反撃を物ともせず銀座を破壊し尽くすところまで見せて欲しかった。日劇を壊したあと、意味もなく和光ビルにUターンするゴジラを見て、やっぱりここまでしかモデリングしてなかったのか……と少し寂しい気持ちになってしまったよ。

まあ、今回は海戦にこそ注力するコンセプトなのだろうし、確かにわだつみ作戦のくだりはBGM*4 も相まってワクワクするものがあった。だが、肝心のゴジラに対するダメージ描写がさっぱりし過ぎている。あんな『ダンケルク』みたいなシーンは要らないので、代わりに水圧と再生の攻防戦を見せて欲しかったなあ。どれも無理な話だとは分かっちゃいるが、既に『パシフィック・リム』や『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を観ている身だ。どうしても特撮に要求するハードルは高くなってしまう。いずれにせよ映画は当たっているようで、それだけでも充分ありがたい話ではあるのだが。だってメガロゴジのソフビが、当たり前のように売られているのも『シン・ゴジラ』が界隈を盛り上げてくれたから。子供と子供が喧嘩すると、おしまいには国と国が喧嘩するように、新作ゴジラが売れるとガバラやカマキラスのソフビが並ぶ未来が待っているのだ!(所要時間22分)


ムービーモンスターシリーズ ゴジラ(1973) / BANDAI

ムービーモンスターシリーズ ジェットジャガー / BANDAI

*1:アントニオ猪木引退試合といい、何故この男に神々の幕引きを委ねるのか?という疑問は拭えないが、確かにスクリーン映えするイカした面構えのオーナーではある。

*2:むしろ本作に関しては、いたずらに感情を盛り上げる説明的な劇伴が鳴りを潜めており、物語への没入を遮るノイズがひとつ減っていたように思う。

*3:西武園ゆうえんちの『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』をはじめ、怪獣関連のVFXもトライアルを繰り返している。

*4:BGMに関しては、逆に萎えてしまったファンも少なくないだろうが、去る11月7日に開催された『未確認社会性物体【第十二種接近遭遇】』にて充分語ったので割愛する。どうしても気になる方は、このイベント内容が載っている「モノ・マガジン」2023年 12/16 号をチェックしてくれ。