大怪獣まんだら

GIGAN YAMAZAKI & WAGAYA FACTORY's blog

月のシャワー

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ごく親しい人間やトークイベントの常連さんには周知の事柄であるが、高橋よしひろの漫画が好きだ。犬が好きだからが高橋よしひろを好きになったのか? それとも高橋よしひろが好きだから犬を好きになったのか? 今となっては“鶏が先か、卵が先か”みたいな感じだが、事あるごとに野犬や熊の話をしていたら、銀牙シリーズの愛蔵版コミックスのお手伝いをすることになった。いわゆる傑作選スタイルで、名作の誉れ高いエピソードの合間に読み物ページがあり、そこを担当して欲しいとのこと。結局、スケジュールとの兼ね合いもあり、登場キャラクター大辞典の執筆のみを引き受けることになったのだが、それにしたって余裕がない。なんせ優に100巻を超える大巨編であり、単純に読み返すだけでも時間が掛かる。しかも犬だけでなく、人間、熊、狼、猿、その他のキャラクターも隈なく載せたいらしい。「100匹は超えますよねぇ……」と担当氏。「いやいや、100や200では効かないでしょう!」と返したものの、自分にだって何匹になるかは分からぬ。果たして与えられたページ数で足りるのか? Q数や段組みで調整できるとはいえ、それにも限度はあるのでヒヤヒヤしながらリストアップしたが、なんとかギリギリ収まってよかった。


今回、最も頭を悩まされたのは表記のルールである。辞典である以上、キャラクターの名前はフルネームで載せるべきだ。たとえば、ジョンの甥っ子であるアンディであれば、アンディ・バルコムでいい。アンディという名は、秀俊先生がつけたのかもしれないが、バルコムさんの家で産まれたからバルコムなのだろう。人間と変わらないネーミングだ。では、白銀狂四郎は? おそらく白銀は、いわゆる名字ではない。暴力親父や死んだ兄弟犬も白銀なにがしという名前だったとは考えにくく、これは狂四郎個人の容姿や戦いざまを由来とする一種の通り名と思われる。つまり玉取りのヒロだとか肥後の黒マムシと同様のものだ。で、ここで持ち上がってくるのが、通り名をフルネームとカウントすべきなのか問題。普通に考えたらNOだが、銀牙シリーズは任侠ものや時代劇のノリで描かれており、そう考えると通り名=キャラクター名と捉えるべきという気がしてくる。ポンポンの繁はポンポンの繁だし、組紐屋の竜は組紐屋の竜じゃないか。ただ竜としか書かれていなかったら、むしろ違和感が残る。それに決して短くはない通り名を、頭の一行分で処理することによって、少しでも多くの情報を本文に拾えるというメリットもあった。*1


ただ、異名と通り名の区別はつけなくてはならない。この世界の犬は、妙に異名持ちが多い。タイトルに謳われている“流れ星 銀”からして異名なワケだが、どちらとも取れる名も一部存在する。たとえば自分が一番好きな白狼であれば、北見の白狼に加えて、“ヒグマ殺しの白狼”という呼び名もある。個人的には後者のほうが印象深いものの、初登場時に北見の~と名乗っており、のちに再登場したときもそうだった。野犬にとって、どこを根城にしているかということは、己のアイデンティティの根幹の部分に関わってくる問題なのかもしれん。そこで今回は、顔見世のときに本人が名乗ったりしていたものを通り名とした。あと、意外と困ったのが犬種で、こちらが想定していたよりも明言されているキャラクターが少なかったのだ。どう見ても○○犬だろうというヤツも、勝手に推測して書くわけにはいかず、やたらと“不明”が多くなってしまった。まあ、これが同人誌だったら、国会図書館で掲載誌*2とかも確認していたかもしれないけれど、残念ながらタイムアップ。そう考えてみると、ブログはいいよね。何の制限もなく、あとからいくらでも修正できるし、これがあるから心の平穏を保てている気がする。だって見本誌を見ていたら、次から次へと誤字脱字が見つかって、もう頭がおかしくなりそうだワン!*3

*1:メジャーなキャラクターならともかく、樋川のスケベ憲一みたいなレベルになると、憲一とだけ書かれていても何が何だか分からないし、本文で通り名の説明をしたら、それのみでほとんどのスペースが埋まってしまう。

*2:Wikipediaなんかを見てみると、ハイエナの犬種はワイマラナーと書かれていて、そう言われてみると確かにワイマラナーっぽい……。もちろん、書き手の思い込みや“独自研究”の可能性もあり、少なくとも単行本には載ってないんだけど、『週刊少年ジャンプ』の企画ページとか未収録の扉絵に書かれてたんじゃないかなあと。もっとも犬種に関しては、わりと執筆時期でブレがあったりするので、ゴラク時代のものを一次資料とすることにした。ただ、十数年前に出た画集にも犬種情報が載っているというのは盲点だった。痛恨。

*3:自分の場合、モニター上だけでなく、実際にプリントアウトして誤字がないか確認するし、場合によっては編集とともにゲラチェックもする。また、一般書籍であったら校正・校閲というプロの目も入るわけだけど、それでも絶対になくならないのが誤植というものだ。だから書き手としては、いちいち気にしてたら仕事にならない類のものではある。でもまあ、やっぱり凹むよね。