『ザ・プレデター』、最高だった。ダークホースのプレデターコミックにありそうな一発アイデア勝負の筋書きは潔く、またシェーン・ブラックとフレッド・デッカーが手掛けているだけあって、かの傑作『ドラキュリアン』にも通ずるところがあったように思う。元・兵士のならず者集団ルーニーズなんて、まさに怪物討伐隊の大人バージョンじゃないか! これはもうジャンル映画ファンは大歓喜だろうと思ってたら、意外にも非難轟々。プレデターが獲物の脊椎を引き抜く習慣は、野蛮且つ崇高な儀式ではなく、優秀な遺伝子を確保して自らに組み込むためのものだったという新設定が、一部マニアから不興を買っているようだ。最近、たびたび耳にする“公式が解釈違い”というヤツで、誇り高き狩人であるはずのプレデターが、戦闘力皆無の子供をさらおうとしていた点も非難されている。
なるほど、確かに今回のプレデターたちは、プレデター道にもとる連中だったかもしれん。しかし自分がうまいなあと思ったのも、この部分の語り口だった。本作はプレデター界の真実をつまびらかにしたように見せつつ、実のところスターゲイザーなる組織の人間が推測を語っただけに過ぎないというエクスキューズも仕込んでいる。だから今後、いくらでも微調整を加えたり、180度ひっくり返したりすることが可能なのだ。おそらく数年後には、手段と目的を取り違えて、己の遺伝子改良に躍起になっているプレデター“も”いる……みたいなことになるんじゃなかろうか。『プレデターズ』を観れば分かるように、プレデターだって一枚岩ではないし、*1 そもそも1号ことフジティブ・プレデターが、本当に地球人の味方だったのかどうかさえ分からない。実にうまい処理だ。
ちなみに子供を襲った点については、コミック『エイリアンVSプレデター』でも武器を持たない人間を殺したり、女子供を追いかけ回したりしているので、これまでもそういう粗野な一派はいたじゃんと思ってしまう。まあ、コミックは正史ではないと考える向きも少なくないかもしれないが、現在知られているプレデター像の確立にあたって、ダークホースコミックスが果たした役割は大きい。映画『エイリアンVS.プレデター』が、前述の同名コミック*2 を原型としていることは有名だし、『プレデター2』にしたってコミック『Predator: Concrete Jungle』*3 の強い影響下にあった。良くも悪くも単なる殺戮マシンとして描かれていたプレデターに、一種の義侠心を与えてみせたのもコミックのほうが先で、その延長線上に『2』以降の誇り高き狩人としてのプレデターが存在するのだ。要するにプレデターシリーズって、映画とコミック、トイ、ゲームが互いに影響し合って世界観を形成してきたものなので、何でもアリなのねと大らかな心で受け止めたほうがより楽しめるでしょう。それができない真面目な人は……災難ダッタト諦メナ!
フジティブ・プレデター アルティメット 7インチ アクションフィギュア / NECA
*1:『プレデターズ』に登場するスーパープレデターたちは、プレデターの本流であるところの「ヤウチャ」と対立しているという描写がなされていたが、現在では狩りに対する価値観の相違こそが確執の原因で、彼らは「ローグス」と呼ばれる離反組なのだと新たに設定されている。もちろん、ローグスはミスター・ブラック(バーサーカー)、ファルコナー、ドッグ・ハンドラーの3人以外にも数多く存在する。
*2:厳密な話をすると、コミックは『Aliens vs. Predator』で、映画やゲームは『Alien vs. Predator』。おそらくダークホースコミックスは、映画第1作目ではなく、『Aliens(エイリアン2)』の版権を取得したうえでコミックシリーズを展開しているため、タイトルが複数形になるのだろう。
*3:ニューヨーク市警に勤めるダッチ・シェイファーの弟が、大都会に出現したプレデターと戦うというストーリーで、プレデターを追う政府直属の特別捜査チームや麻薬カルテルも登場する。PlayStation 2及びXbox用の同名ゲームも存在するが、特にストーリー的な繋がりなどはない。